船から海を見ていると、黒っぽい背がむっくり現れた。イルカの仲間スナメリだ。山口県上関町の「反原発の島」と呼ばれる祝島(いわいしま)は透きとおった瀬戸内海に浮かぶ。
漁師の竹林民子(80)は9月、署名用紙を仕分けていた。中国電力宛てと関西電力宛ての2種類だった。
「もう腹が立って。ほかの所の『ゴミ』を、きれいな所に持ってこんでええ。あっちもこっちも汚さんでええのに」
原発計画のある対岸に、使用済み核燃料の「中間貯蔵施設」を造りたいと2023年8月、中国電力が関西電力とともに町に提案したのだ。16日後には西哲夫町長が調査を受け入れた。
竹林は「よいしょ、よいしょ」と足を引きずり中村隆子(93)の家に向かった。かつて毎週、反原発デモで「原発はんたーい」と拳を挙げていた元婦人会長は、布団に寝ていた。
「とんでもないことですわ。なんでここによそのゴミを持ってこなくちゃいかんのですか」
声は元気だ。でも「体がいうことをきかん」。毎週のデモ自体、コロナ禍で20年に途絶えた。今は年1回の新春デモだけという。
「島はもう年寄りばっかし。人口も少ない。その隙を狙ってきたんでしょう」「ようよう原発(問題)が落ちついたのに、またこげなことをする。中電は私らが死ぬのを狙うちょる」
おばちゃんたちはやっぱり、怒っていた。10年以上前の「予言」が、確信に変わっていた。
町内に原発計画がもちあがっ…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル